アポロ13号のストーリー

アポロ13号のストーリー

アポロ13号のストーリー

問題分析のショート・フォーム活用(プロセスを簡略化して活用する)
 

 「問題分析」の最良の使い方とは何か。それは、最善の効果をもたらす使い方である。別に定まったやり方に固執することはない。ちょっとしたアイデアで問題の原因を明らかにできるなら、全プロセスの各ステップにこだわる必要はないのである。実際問題として、「問題分析」の技法を長い間使えば使うほど、人々は日々直面する問題に、プロセスのどの部分を使えばよいかがわかるようになってくる。

 「最近、この作業のタイミングに何か変化があったのか」「トラブルに気づく直前には、製造工程のどの段階にあったのか」―こうした質問が出始めれば、しめたものである。

 「問題分析」を学問的に評価するのではなく、日常の問題解決にこの技法を実践的に適用するように、頭が切り換わっているからである。

大多数の問題分析においてペンと紙は見当たらない

 問題分析に際しては、多くの場合、紙やペンは必要ない。特にプロセスを短縮して利用する場には全く必要ない。問題が深刻だからといって、解決のための分析時間が長くなったり、手続きが複雑になったりするわけではないのである。むしろ、プロセスを簡略化して使ったことで解決できた、きわめて深刻な問題もある。データが乏しいため、プロセスを完全な形で利用できない場合は少なくない。こんな場合は、プロセスの一部分によって「最も可能性の高い原因」を見出さなくてはならない。そのためには、経験に基づいた思考が必要となる。

アポロ13号は月に向かう途上にあった

 アポロ13号が月への途上であった。打ち上げてからすでに54時間2分たっていた。位置は、地球から20万5000マイルの距離である。万事順調だった。

 ところが問題が発生した。「電源の幹線Bの電圧が下がった」と、司令船パイロットのジョン・L・スウィガード・ジュニアは、ヒューストンにこう報告した。2つの発電系のうち2番目の発電系の電圧が低下し、警告灯がついたのである。だが間もなく、電圧は回復した。再びスウィガードは報告した。「電圧は順調のようだ。しかし大きな爆発音が聞こえたし、まだ警告灯がついている」そして3分後、問題の大きさはよりはっきりしてきた。スウィガードは「こんどは幹線Aの電圧が下がった。約25.5ボルトになっている。幹線Bは、今のところ大丈夫だ」と報告した。3人の乗組員を乗せてものすごい速度で月に向かっているアポロ13号は急速に力を失っていた。今にも機能を失ってしまいそうであった。宇宙で大変な事故が発生したのである。しかし、いったい何が起こったのか、誰もはっきりとはわからなかった。

 

NASAの技術者達は問題分析に取り掛かった

 ヒューストンでは、NASA(米国航空宇宙局)の技術者たちが、ただちに「問題分析」の質問を始めた。そして、質問に対する答から得た情報と、モニター機器に示されたデータによって、差異を明らかにする明細化に着手した。

発生時対策の発動

 同時に、アポロ13号の電力消費を極力減らすための非常処置もとった。最初の報告があってから13分後、スウィガードはこう言ってきた。「2号酸素タンクの圧力がゼロになった。ハッチから外を見ると、われわれは何かを外に排出しているらしいことがわかった。何か、ガスのようなものだ・・・」

 問題は、電気系統の電力の低下という形で始まった。これが「2つのタンクのうち2号酸素タンクの圧力が突然ゼロになった」という問題になり、しかも「1号タンクからも徐々に酸素が減っている」という問題に変わった。酸素は生命維持システムに直接使われている他、発電にも用いられている。状況は最悪だった。

技術者達によって原因が特定され対策が取られた

 この時点ではまだ、「タンクが爆発したかもしれない」などとは誰も考えていなかった。だが「酸素2号タンクの破裂」という「原因」が、電圧の急激な低下と、それに続く1号酸素タンクの圧力の低下を説明できることはわかっていた。

 酸素と電気を少しでも保たせるために、ヒューストンはさらに追加処置をとった。多くの「IS」「IS NOT」について質問が行なわれ、さらに多くの追加データを手に入れた。原因を実証するため、一連の系統チェックを行った。そしてついに、2号タンクが破裂して2号タンクの酸素すべてが外に漏れてしまったこと、そのときに1号タンクのバルブも破損し、そこからもかなりの量の酸素が漏出し続けていたことが確定的になったのである。

 とにかく、3人の乗組員は、生死ぎりぎりの体験をしたものの、無事に地球にもどることができた。原因の発見があとわずかでも遅れたら、3人は生きて帰れなかったはずである。

それで一体、根本原因は何だったのだろうか?

 この問題の根本的な原因は、地上での実験とテストで確認されたが、これには1週間を要した。

 打ち上げの2週間前のことである。公開打ち上げテストの際、ある地上要員が、パイプで液体酸素をタンクに注入した。テストの後、2号タンクから酸素を抜きとらねばならなかったが、これが難作業だった。

 まずタンクの中でヒーターを作動させる。これで液体酸素を気化させ、それに圧力を加えて外に押し出すのである。地上要員は、この時ヒーターを8時間作動した。ヒーターをそれほど長時間作動させたのは初めてのことだった。

 ヒーターには、温度が上がりすぎると電気が切れる保護スイッチがついていた。ところがこの地上要員は、アポロ13号に使われている28ボルトの電源にではなく、65ボルトの電源にヒーターを接続してしまったのである。そのため、スイッチは「ON」の位置で溶着していた。

 アポロ13号は、そのまま飛び立ったのである。飛行中、乗組員は酸素の正確な量を知ろうとして、ヒーターをちょっと作動させた。すると、溶着していたスイッチが火花を飛ばし、タンクの酸素を熱して、内部の圧力は異常に上昇した。そしてついにタンクは破裂し、カバーや多くの接続パイプを吹き飛ばしてしまったのである。

 この問題分析は急を要した。NASAには、観察し得る区別点と変化のリストすべてを1つ1つ検討している余裕がなかったのである。その代わりに、NASAの技術者たちは「発電系統に突然の、しかも全面的な故障を引き起こすのは、どんな『外傷性の変化』か」を問うた。そうした結果は、燃料室への酸素の流れがストップすることで生まれるはずである。スウィガードが「2号タンクがゼロになった」と報告していた時、NASAは、どの燃料室が作動しなくなっているかがすぐにわかった。

知り得たことは想定原因のテストに活用してみる

 そこで「2号タンクが破裂した」という原因をテストしてみた。その結果、その原因が、明細化に記された問題の突発性と全面性とを説明できることがわかったのである。加えて、「大きな爆発音」「アポロ13号の振動」「何かが外に漏れ出ていた」などの、乗組員の報告についても説明がついた。収集した「IS」に関するデータと、モニター活動から得た「IS NOT」に関する情報の双方を、その原因は説明したのである。

NASAの技術者達にとっては、認めがたい原因ではあったが 

 NASAの技術者たちにとっては、この原因は認めがたいものだった。彼らは、アポロの機器を考え得る最高のものだと自負し、それに絶大な信頼を寄せていたのである。宇宙の果てで酸素タンクが破裂したなどということは、とうてい信じられなかった。彼らは経験的に「タンクの破裂などあり得ない」ことだと考えたのである。実際、打ち上げの2週間前に、地上要員がミスをしなければ、問題は何も起こらなかっただろう。アポロ13号は設計され、製作された通りの機能で月に行き、帰還しただろう。

 ヒューストンの技術者たちは、確かに「破裂などあり得ない」と考えた。それにもかかわらず、彼らは「問題分析」のプロセスを厳守し、手順にのっとり想定原因についてテストしたことが正しい解答を出したと信じた。しかも、記録的な短時間でこの原因が正しいことを裏づけたのだった。彼らはアポロ13号のシステムを知っていた。なおかつ、彼らは「何が突然の故障を引き起こす可能性をもっているか」についても知っていた。だからこそ、NASAの技術者たちはこのようにうまく問題を解決できたのである。

組織的な重大問題に対する分析的アプローチ

 こうしたケースでは、「問題分析」は、2つの要因によって非常にむずかしくなる。2つの要因とは、二次的影響とパニックである。複雑なシステムが突然故障すると、その差異を曖昧にしてしまう別の差異を引き起こすのが通例である。しかも、突然の故障のショックはパニックを発生させる。そのために事実を慎重に検討し、情報を利用することができなくなってしまうのだ。

 順序通りの体系的な調査は、いつでもむずかしいものである。だが、必要な情報をすべて集めるのが不可能であるにもかかわらず、できるだけ素早く原因を探さなければならない場合には、何よりも手順が大切なのである。

 NASA事件では、関係者は差異状態が発生した場所から20万マイル以上も離れた場所にいた。当然、ごく限られた情報しか収集できなかった。だが体系的なアプローチをとる術を知っていたおかげで、彼らは1つのチームとして共同作業を行うことができたのである。

 

チャールズ・H・ケプナー、ベンジャミン・B・トリゴー著「The New Rational Manager(新ラショナル・マネジャー)」から転載.

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